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レア・ストーリーズ【ポンペ病の患者さんの声】 ノアくん(10歳) カナダ

ノアくんの写真

部屋には医師が大勢いたけど、私は独りぼっちでした。先生たちは『残念です』と誰もノアが生き延びると思っていなかったようです

冬が来ると、ノアはほぼ一日中家に閉じこもらなければならなくなります。トロント郊外にあるオンタリオ州ウィットビーの自宅で、母親であるトリシアが語ってくれました。「少しの間なら外出できるんですけど、あまり長くなると、次の日には熱が出ることがわかっているので」ノアが患っているのはポンペ病。筋肉や呼吸器など様々な体組織に影響を及ぼす、ライソゾーム病という遺伝性の希少疾患の一つです。

トリシアは言います。「とても荷が重いです。ノアについての決断は、すべて私が一人で下すしかありません。彼にとって何が最適かを私が決めなければならないんです」
シングルマザーであるトリシアは、ノアがポンペ病と診断される前から既に手一杯の状態でした。上の息子ダリンと娘のマライカは、ノアが生まれた時はまだ独り立ちしていませんでした。トリシアは、調剤師として働きながら、家族や近所の助けを得て、なんとかやっている状態だったのです。

生まれた時のノアは健康でしたが、間もなく問題が生じ始めました。粉ミルクを飲むと体調を崩すようになったので、母乳を与えましたが、彼の発達は遅れていました。医師たちがあまり関心を示さぬ態度で、「まあ、ちょっと様子を見てみましょう」と言ったことをトリシアは覚えています。

2歳の誕生日のひと月ほど前に入院したノアは、RSウイルス感染症と診断されました。しかし、入院中にある医師がノアのお腹が膨れていることに気付きました。「超音波検査をしたのですが、結果を見た医師たちはとても動揺していました」ノアの心臓と肝臓は異常なほど肥大していたのです。

ノアは、遺伝学者による検査を受けるためにトロントの中心部にある大きな病院へと移され、3週間後、酸性αグルコシダーゼ(GAA)酵素活性を調べました。その結果、ポンペ病と診断されました。心臓・肝臓周辺の組織の肥大は、酵素活性の低下が引き起こしたグリコーゲンの蓄積によるものだったのです。トリシアは事実に打ちのめされたその時のことを語ってくれました。「何をどうしたら良いかわかりませんでした。部屋には医師が大勢いたけど、私は独りぼっちでした。先生たちは『残念です』と言いました。誰もノアが生き延びると思っていなかったようです」

しかし、トリシアはノアのことを決して諦めませんでした。「今後どうなっていくのか、例えば、必要な通院の頻度など、具体的なことがわかった時、私は仕事を辞めました」それからは、治療のためにノアを病院へと連れて行く日々が始まったのです。
過酷な毎日ではあったものの、ノアの状態は安定していき、トリシアにとっても大きな救いとなりました。
残る大きな問題の一つはノアの社会生活です。ノアは学校や近所の公園でいじめや仲間外れの対象になることがあり、しばしば“他人とは違う”という否定的な意識を持たざるを得ません。しかし、母親と同様にノアもまた、彼なりの愛情表現でこの疎外感と粘り強く戦っています。トリシアが教えてくれました。「彼はハグをするのが好きなんですよ。もしノアが学校で先生にハグをしなかったら、どこか体調が悪いのだろうとわかるくらいです」そんな彼にとっては、どちらかと言えば特殊教育の仲間や年上の子供、あるいは大人の方が付き合いやすいようです。

ノアは、学校生活において他人の支援を自ら求める努力も続けてきました。「ノアに車椅子を与えるのにはためらいがありました」車椅子が彼の成長の妨げになるのではないかとトリシアは思ったようです。しかし、車椅子はエネルギーの節約に役立ち、機動力を減じるどころか、社会的弱者に対する否定的なイメージを払拭してくれたのです。トリシアは言います。「今ではみんな彼のためにドアを開けてくれるようになりました。もっとも、彼が車椅子から立ち上がって走り出したりすると、みんな唖然とするみたいですけど」

今日はノアの家の庭に新雪が降り積もっています。トリシアが外出を許すと、ノアはすぐに飛び出そうとするので、トリシアは、その襟首を掴んで引き戻し、息子に暖かい格好をさせてから、雪景色の中へと送り出しました。
「見て!」興奮して高い声で叫ぶノア。彼は背中から雪に倒れ込み、雪の上で両腕を上下に動かしてみせます。それから、いつもの笑顔を浮かべたまま、両手で雪球をこしらえると、近くにいる兄と姉に投げ付けました。

難病という苦境から立ち上がったノアには、強力な支援をしてくれた家族がいますが、その源となったのはトリシアの母親としての揺るがぬ愛情でした。気苦労や動揺はありましたが、この道のりが自らに与えてくれたものに感謝する気持ちを忘れないと彼女は言います。
「ポンペ病の診断を受ける前は、私はいつも仕事に追われていて、子供たちと過ごす時間はありませんでした。ノアの病気のことは子供たちと一緒に過ごすようになるための道のりだったと思っています。いつも楽しかったわけではありませんけど」そう言いながら、ノアが投げつけた雪球の猛攻をかわすトリシア。ほとんどの玉は標的に当たる前に空中で砕けてしまいます。肩に命中した雪玉の跡を見ながら「楽しそうでしょ?」と言うトリシア。
笑いに包まれたノアの歓声は舞い上がる新雪よりも遠くまで弾け飛んでいきました。

※記載の年齢はすべて取材時のものです。
レア ストーリーズは、Amicus Therapeutics, Inc.が作成したRare Storiesを翻訳したものです。
https://www.amicusrx.com/advocacy/rare-stories/

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2020年12月作成